ちょーさんメモ出張版 気まぐれブログ

ちょーさん(@cho_san111000)のブログです。数学やその他のことを書きます。更新頻度はちょーさんの気分次第です。

擬距離とハウスドルフ

お久しぶりですちょーさんです。先月はバタバタしていて更新できませんでした。

最近、ずっと卒研の合間を縫って一様空間の勉強をしています。前の記事でもチラッと言ってたように位相群に触れてモチベーションが出てきたので勉強し始めたのですが、やってみると思ったより難しかった…半月くらいでさくっと終わらせるつもりが気がついたら10月が終わってました。自分の数学力を過信していましたね。ただ苦労した分収穫もありました。そこで今回は一様空間を勉強する中で気が付いたことを書いていこうと思います。近況報告おわり。

 

擬距離の定義

さて、一様空間などと言いましたが今回はそう難しい話はするつもりはなくて、擬距離から入る位相についてごく簡単な事実の話をします。

まず、距離空間の定義は次の通りでした。

 写像 d\colon X \times X \to X が3条件

 (1) d(x,y)=0 \Leftrightarrow x=y

 (2) d(x,y)=d(y,x)

 (3) d(x,z)\leq d(x,y)+d(y,z)

 を満たすとき dX 上の距離関数といい (X,d)距離空間という.

 普通は(1)にさらに正値性 d(x,y)\geq 0 を課すことが多いですが、これは実はこれらの公理から証明できるので今回はこれを定義とします。

擬距離とは距離の公理のうち(1)を弱めて\Rightarrowを除いたものになります。

 写像 d\colon X \times X \to X が3条件

 (1) d(x,x)=0

 (2) d(x,y)=d(y,x)

 (3) d(x,z)\leq d(x,y)+d(y,z)

 を満たすとき dX 上の擬距離といい (X,d) を擬距離空間という.

 擬距離空間というのかは知りませんが一応距離空間に合わせて今回はこう定義することにしておきます。

これでも正値性 d(x,y)\geq0 は同様に証明できます。距離空間のときと違うのは異なる2点でも距離が0になりうることです。

擬距離による位相

擬距離があれば位相が入ります。入れ方は距離のときと同じです。

 d\colon X \times X \to X が擬距離のとき

  U\subset X\colonopen \Leftrightarrow \forall x\in U\ \exists \varepsilon \gt 0\ B(x,\varepsilon)\subset U

 としてX上の位相が定まる.ただしx\in X\varepsilon\gt0について     

  B(x,\varepsilon)=\{y\in X\mid d(x,y)\lt\varepsilon\}

 これが位相を定めることも距離空間の場合とまったく同様に示せます。

擬距離の位相についても色々な性質が成り立ったり成り立たなかったりするのですが今回はあまり深くは立ち入りません(というか深く立ち入る場面はたぶんあまりないです)。

ただ、擬距離の位相的性質について次の定理が成り立ちます。これが今回のmain theoremです。

 定理  (X,d)を擬距離空間とするとき,以下は同値である.

  (1)\ (X,d)ハウスドルフ空間である.

  (2)\ dは距離関数である.つまり d(x,y)=0\Rightarrow x=y が成り立つ.

 proof)(1)\Rightarrow(2)を示す.d(x,y)=0 となる点 x,y\in X をとる.もし x\neq y ならハウスドルフ性よりある \varepsilon\gt0があってB(x,\varepsilon)\cap B(y,\varepsilon)=\emptyset となることがいえるがこれは明らかに d(x,y)=0 に矛盾する.よってx=y

(2)\Rightarrow(1)については相異なる2点x,y\in Xについて\varepsilon=\frac{1}{2}d(x,y)\gt0とおけばB(x,\varepsilon),B(y,\varepsilon)は開集合で

x\in B(x,\varepsilon)\ ,\ y\in B(y,\varepsilon)\ ,\ B(x,\varepsilon)\cap B(y,\varepsilon)=\emptyset

となる.

(証明終)

この定理によれば距離と擬距離の差はまさに位相空間としてハウスドルフか否かの差であり、距離の公理のd(x,y)=0\Rightarrow x=yというのはハウスドルフ性を主張しているんだと思えます。距離の定義にこれを入れるというのは距離空間ではハウスドルフ性が本質なのかなぁという気持ちです。

さらに言えば、擬距離が与えられたとき空間Xd(x,y)=0という同値関係で割って距離空間にすることができます。これは位相空間論でいえばコルモゴロフ商、一様空間論でいえばハウスドルフ化の操作をしていることになります。つまりd(x,y)=0となるときx=yとみなすことにするとハウスドルフ空間になるわけです。

まとめと次回予告

というわけで、距離空間はハウスドルフな擬距離空間として特徴づけられることを紹介しました。なぜこれを一様空間の勉強中に気づいたかというと、擬距離の入った空間は自然に一様空間になります。さらに一様空間はある意味で擬距離を使って特徴づけられます。そんな感じで一様空間は擬距離と密接な関係があるわけですが、一様空間におけるハウスドルフの特徴づけを見ていてこれに思い至りました。先に少し触れたように一様空間にはハウスドルフ化(付随するハウスドルフ空間)というのがあり、これがちょうど定理の主張を満たすようにしていると思えます。

一様空間についてはやっと勉強がひと段落つきそうな目処が立ってきたので近々pdfにでもまとめようかと思います。次回の更新はそれになりますかね。乞うご期待(?)ください。