ちょーさんメモ出張版 気まぐれブログ

ちょーさん(@cho_san111000)のブログです。数学やその他のことを書きます。更新頻度はちょーさんの気分次第です。

位相空間とネット

お久しぶりですちょーさんです。

最近院試勉強をしていたらネットの概念に少し触れたので今回はネットについて少し語ろうと思います。ネット自体については他にも詳しくまとめてくれている方々が何人かいるようなのでここでは深く立ち入らず,位相空間論においてネットがどう便利なのかを書いていこうと思います。証明も一部省略してfactとします。

仮定知識は位相空間論とフィルターです。フィルターについては以前にpdfにまとめて記事にも書いてあります

cho-san.hatenablog.jpここにまとめた程度の知識があれば今回は大丈夫です。

 

ネット

ネットは点列の一般化です。フィルターも一般化ですがネットはより直接的な一般化で点列はネットの一種です。まずはネットとその周りの基本的概念を定義します。

ネットの定義

点列は\mathbb{N}を添字集合とする族ですがネットではこの添字集合を一般化します。この添字集合にあたるのが有向集合の概念です。

 定義(有向集合)

  空でない集合I上の前順序\leqが条件

  (有向性)\forall i,j\in I\ \exists k\in I\hspace{1.0em}i\leq k\ ,\ j\leq k

  を満たすとき(I,\leq)を有向集合(directed set)という.

つまり有向集合とは任意の2元に上界が存在する前順序集合のことです。有向集合を前順序ではなく順序として定義することもあります。

全順序集合は有向集合です(maxがとれるので)。従って\mathbb{N}は有向集合であり,有向集合は\mathbb{N}の一般化だと思えます。

例 \mathfrak{F}X上のフィルターとする.\mathfrak{F}上の関係\leq

F_1\leq F_2\Leftrightarrow F_1\supset F_2

  とすると(\mathfrak{F},\leq)は有向集合である.

以下,関係記号を省略して有向集合Iと書き有向集合の前順序を\leqで書きます。

有向集合を添字とする点の族としてネットを定義します。

 定義(ネット)

  Xは集合でIは有向集合とする.写像x\colon I\to XXのネット(net)という.

 ネットは有向点族と訳されることもあります。ネットx\colon I\to Xを点列のときと同様に(x_i)_{i\in I}などと書きます。

ネットの添字集合に有向性を仮定するのはあとで位相空間のネットに収束を定義するときに”十分先の方”では比較できてほしいからという気持ちです。半順序では弱すぎる、けど全順序は強すぎる。その間をとった形になります。

 

部分ネットと普遍ネット

この時点でネットの収束の定義もまあ予想がつくだろうと思いますが、位相空間のネットに入る前にもう少しだけ一般のネットについて概念を定義しておきます。

点列では部分列という概念があり点列コンパクト性やボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理なんかで重要になるのでした。そこでネットにも部分ネットという概念を定義しましょう。部分ネットの概念はいくつかあるようですが今回は次のように定義します。

 定義(部分ネット)

  (x_i)_{i\in I}Xのネットとする.有向集合J写像h\colon J\to Iが2条件

  (単調性)\forall i,j\in J\hspace{1em}i\leq j\Rightarrow h(i)\leq h(j)

  (共終性)\forall i\in I\ \exists j\in J\hspace{1em}i\leq h(j)

  を満たすときXのネット\left(x_{h(j)}\right)_{j\in J}(x_i)_{i\in I}の部分ネット(subnet)という.

部分列のときと比べるとやや対応がわかりづらい定義です。気分としては\left(x_{h(j)}\right)_{j\in J}では(x_i)_{i\in I}の”一部分”をとってきているので部分ネットという感じです。実際任意の単調単射\mathbb{N}\to\mathbb{N}は共終性を満たします。

ここで注意してほしいのは添字集合がIからJにまるっきり変わっていることです。点列のときには部分列をとっても添字集合は\mathbb{N}のままでしたが一般のネットではこれが全く別の有向集合に変わります。

また部分ネットに共終性を仮定するのも初めて見る人には分かりにくいかもしれません。共終性というのはつまり非有界性なので点列で言えば点列の有限部分集合を部分列とは呼ばないよねみたいな感じです。

 

ネットに関する概念としてもうひとつ重要なものに普遍ネットというものがあります。

 定義(普遍ネット)

  Xのネット(x_i)_{i\in I}が条件

  \ \forall A\subset X\ \exists i_0\in I\hspace{1em}(\forall i\in I\ \ i_0\leq i\Rightarrow x_i\in A)or(\forall i\in I\ \ i_0\leq i\Rightarrow x_i\in A^c)

  を満たすとき(x_i)_{i\in I}を普遍ネット(universal net)という.

普遍ネットは点列でイメージするのは難しいですが、フィルターで考えるとわかりやすいです。ズバリ普遍ネットとはフィルターでいうウルトラフィルターのことになります。普遍ネットの条件はフィルター\mathfrak{F}がウルトラフィルターであることの同値条件

\forall A\subset X\hspace{1em}A\in\mathfrak{F}\ or\ A^c\in\mathfrak{F}

に対応しています。そのため普遍ネットのことをウルトラネット(ultranet)と呼ぶこともあります。またこの条件は完全性とよばれるので普遍ネットを完全有向点族とも呼びます。

 \mathfrak{F}X上のウルトラフィルターで写像\ x\colon\mathfrak{F}\to X\mathfrak{F}の選択関数,つまり

\forall F\in\mathfrak{F}\hspace{1em}x(F)\in F

  とする.このとき(x_F)_{F\in\mathfrak{F}}は普遍ネットである.

 

次の定理はネットに関して非常に重要な事実です。

 定理(普遍部分ネットの存在)

  任意のネットは普遍部分ネットをもつ.

普遍部分ネットとは普遍ネットであるような部分ネットのことです。この定理の証明は少し長くなるので今回は省略します。証明は細かい部分でテクニカルな作業が必要になりますが本質的には拡大ウルトラフィルターの存在によります。

 

位相空間のネット

ネットの基本的な定義を終えたところでいよいよ位相空間のネットについてみていきます。

ネットの収束

位相空間のネットには収束が定義できます。

 定義(ネットの収束)

  X位相空間(x_i)_{i\in I}Xのネットとする.点x\in Xについて

  \forall N\in\mathfrak{N}(x)\ \exists i_0\in I\ \forall i\in I\hspace{1em}i_0\leq i\Rightarrow x_i\in N

  となるとき(x_i)_{i\in I}xに収束するという.

点列の収束と同じ定義です。性質も点列とある程度同じように、例えば次の定理がなり立ちます。

 命題

  X位相空間(x_i)_{i\in I}Xのネット,\left(x_{h(j)}\right)_{j\in J}をその部分ネットとする.

  (x_i)_{i\in I}が点x\in Xに収束すれば\left(x_{h(j)}\right)_{j\in J}xに収束する.

(証明)任意のN\in\mathfrak{N}(x)についてあるi_0\in Iがあって

\forall i\in I\hspace{1em}i_0\leq i\Rightarrow x_i\in N 

となる.共終性よりj_0\in Jがあってi_0\leq h(j_0)となるが,このとき

\forall j\in J\hspace{1em}j_0\leq j\Rightarrow x_{h(j)}\in N

となる.■

つまり収束点は部分ネットに遺伝します。ただしこの証明の中で共終性を使っていることに注意しましょう(共終性がなければこれは成り立ちません)。

点列ではなくネットで考えることの利点は点列では一般に成り立たない命題がネットで考えると成り立つことです。フィルターと同じですね。例えば次が成り立ちます。

 命題  X位相空間x\in X\ ,\ A\subset Xとする.以下は同値.

   (1) x\in\overline{A}

   (2) xに収束するAのネットが存在する

(証明)(1)\Rightarrow(2)について、ネットx\colon\mathfrak{N}(x)\to Xを選択関数

\forall N\in\mathfrak{N}(x)\hspace{1em}x(N)\in N\cap A

とすると(x_N)_{N\in\mathfrak{N}(x)}xに収束するAのネットである.

(2)\Rightarrow(1)について、xに収束するAのネット(x_i)_{i\in I}があれば

\forall N\in\mathfrak{N}(x)\ \exists i\in I\hspace{1em}x_i\in N\cap A

なのでxAの触点である.■

 

ハウスドルフとコンパクト

ネットを用いてハウスドルフ空間とコンパクト空間が特徴づけられます。このあたりもフィルターと同じですね。まずはハウスドルフ空間からいきましょう。

 定理

  X位相空間とする.以下は同値.

  (1)Xハウスドルフ空間

  (2)Xの任意のネットは収束すれば一意

(証明)(1)\Rightarrow(2)について、ネット(x_i)_{i\in I}が点x,y\in Xに収束しているとする.もしx\neq yとすると,

\forall N\in\mathfrak{N}(x)\ \forall M\in\mathfrak{N}(y)\ \exists i\in I\hspace{1em}x_i\in N\cap M

となるのでハウスドルフ空間という仮定に反する.よってx=y

(2)\Rightarrow(1)について、x\neq yとする.もしこれらが開集合で分離できないとすると,

\mathfrak{N}(x)\cup\mathfrak{N}(y)\subset\mathfrak{F}

となるフィルター\mathfrak{F}が存在する.この\mathfrak{F}の選択関数によるネット(x_F)_{F\in\mathfrak{F}}x,yの両方に収束する.これは仮定に反する.■

このネットによるハウスドルフ空間の特徴づけはまさに点列の一般化です。ハウスドルフ空間では点列収束の一意性は成り立ちますが逆は成り立ちません。これを点列からネットに広げると逆が成り立つわけです。

 

コンパクト空間についても同様の特徴づけができます。こちらはフィルターによる特徴づけも参考にしてください。

 定理

  X位相空間とする.以下は同値.

  (1)Xはコンパクト空間

  (2)Xの任意の普遍ネットは収束する

  (3)Xの任意のネットは収束部分ネットをもつ

(証明)(1)\Rightarrow(2)\Rightarrow(3)\Rightarrow(1)の順に示す.

(1)\Rightarrow(2)について、(x_i)_{i\in I}Xの普遍ネットとする.各i\in Iごとに

S(i)=\{x_j\mid i\leq j\}

とおくと\{S(i)\mid i\in I\}は有限交叉性をもつのでXのコンパクト性より

\displaystyle x\in\bigcap_{i\in I}\overline{S(i)}

がとれる.このとき任意のN\in\mathfrak{N}(x)について普遍ネットの定義からi_0\in Iがとれて

(\forall i\in I\ \ i_0\leq i\Rightarrow x_i\in N)or(\forall i\in I\ \ i_0\leq i\Rightarrow x_i\in N^c)

となるがxの取り方から前者であることがいえるので(x_i)_{i\in I}xに収束していることがわかる.

(2)\Rightarrow(3)については普遍部分ネットの存在から直ちにわかる.

(3)\Rightarrow(1)について、\mathfrak{F}Xのウルトラフィルターとする.\mathfrak{F}の選択関数によるネット(x_F)_{F\in\mathfrak{F}}は普遍ネットである.(x_F)_{F\in\mathfrak{F}}の収束部分ネット\left(x_{h(i)}\right)_{i\in I}をとりその収束点をx\in Xとする.

このとき任意のN\in\mathfrak{N}(x)について普遍ネットの定義からF_0\in\mathfrak{F}をとれば

\forall F\in\mathfrak{F}\ \ F_0\supset F\Rightarrow x_F\in N

が部分ネットの共終性と収束よりいえる.とくに任意のF\in\mathfrak{F}についてx_{F_0\cap F}\in N\cap Fである.\mathfrak{F}はウルトラフィルターなのでN\in\mathfrak{F}となる.

故に\mathfrak{N}(x)\subset\mathfrak{F}なので\mathfrak{F}は収束することがわかった.任意のウルトラフィルターが収束するのでXはコンパクトである.■

これも(3)の条件は点列コンパクト性の一般化になっています。(2)の条件はウルトラフィルターの収束の類似です。まとめると、ネットによる特徴づけは

ハウスドルフ\Leftrightarrow収束が一意
 コンパクト\Leftrightarrow収束部分ネットが存在

となります。

 

ネットを用いた証明

本記事はネットの便利さを紹介する記事だったはずなので実際にネットの便利さがわかる証明をしてみたいと思います。

 命題  ハウスドルフ空間のコンパクト集合は閉集合

非常に有名な命題です。これをネットを用いて証明してみます。

(証明)Xハウスドルフ空間とし\ A\subset Xをコンパクト集合とする.x\in\overline{A}とするとxに収束するAのネット(x_i)_{i\in I}が存在する.Aはコンパクトなのであるy\in Aに収束する部分ネット\left(x_{h(j)}\right)_{j\in J}が存在する.また収束点は部分ネットに遺伝するので\left(x_{h(j)}\right)_{j\in J}xにも収束する.Xはハウスドルフなので収束の一意性からx=y\in Aとなる.よってA閉集合

開被覆を用いた証明よりも直感的ですっきりした証明になったかと思います。

 命題  コンパクト空間の閉集合はコンパクト.

これも有名ですね。この命題もネットで示してみましょう。

(証明)Xハウスドルフ空間とし\ A\subset X閉集合とする.Aの任意のネット(x_i)_{i\in I}Xのコンパクト性よりあるx\in Xに収束する部分ネット\left(x_{h(j)}\right)_{j\in J}をもつ.しかしA閉集合なのでx\in Aである.よってAの任意のネットがAに収束する部分ネットをもつのでAはコンパクトである.■

この命題は開被覆による証明も簡潔ですがこの証明もかなり簡潔でわかりやすいものになっています。

 命題  Xはコンパクト空間でY位相空間とする.

   Yへの射影p_Y\colon X\times Y\to Y,p(x,y)=yは閉写像である.

これもそこそこ有名なやつです。この命題のネットを用いた証明には次の事実を使います。

 命題  X,Y位相空間f\colon X\to Y写像とする.以下は同値.

 (1)fは連続

 (2)Xのネット(x_i)_{i\in I}xに収束すればYのネット(f(x_i))_{i\in I}f(x)に収束する

この命題の証明もそう難しくはないのですが今回は認めることとします。この命題自体も点列連続の類似になっています。

(証明)A\subset X\times Y閉集合としてp_Y(A)\subset Y閉集合であることを示す.

y\in \overline{p_Y(A)}をとる.するとyに収束するp_Y(A)のネット(y_i)_{i\in I}が存在する.各i\in Iごとにy_i\in p_Y(A)なのでx_i\in Xがとれて(x_i,y_i)\in Aとなる.

Xはコンパクトなのであるx\in Xに収束する(x_i)_{i\in I}の部分ネット\left(x_{h(j)}\right)_{j\in J}がとれる.収束点は部分ネットに遺伝するので\left(y_{h(j)}\right)_{j\in J}yに収束し,X\times Yのネット\left((x_{h(j)},y_{h(j)})\right)_{j\in J}(x,y)に収束する.A閉集合なので(x,y)\in Aであり,y=p_Y(x,y)\in p_Y(A)がわかる.よってp_Y(A)閉集合である.■

これも開被覆を構成する証明よりかは直感的な証明になっているのではないかと思います。

 

ここまでで3つほどネットを用いた証明の例を見てきましたがより直感的で簡潔な証明になっていることが見て取れたかと思います。このようにネットを用いると閉集合やコンパクトといった概念を扱うのが楽になります。もっと勉強してネットやフィルターを使いこなせるようになりたいものです。

まあよく考えたら幾何学徒として多様体なんかを扱っている分には点列で十分なんですが…第1可算なので…

 

[追記]

以上の内容(ネットの定義~ハウスドルフ性・コンパクト性)をpdfにまとめました。ブログでは飛ばした普遍部分ネットの存在の証明なども補っています。

 

本当はフィルターとネットの対応などについて書こうかと思ったのですが疲れたので(あと自分の勉強不足で)それはまた今度にしようと思います。